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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)4号 判決

東京都千代田区九段南二丁目二番八号

右第八号事件控訴人、第四号事件控訴人(以下第一審原告という。)

翠松株式会社

右代表者代表取締役

星薫光

右訴訟代理人弁護士

溝呂木商太郎

同都同区大手町一丁目九番二号

右第八号事件被控訴人、第四号事件控訴人(以下第一審被告という。)

麹町税務署長

石山功

右指定代理人

武田正彦

関根正

室岡克忠

鈴木茂男

右当事者間の青色申告書提出承認取消処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  第一審原告の本件控訴を棄却する。

二  原判決主文第三項中、第一審被告の敗訴部分を取消し、同部分に関する第一審原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、第一審原告の負担とする。

事実

一  第一審原告代理人は、右第八号事件につき、「原判決主文第三項ないし第五項を次のとおり変更する。第一審被告が第一審原告に対し昭和四四年二月一五日付でした源泉徴収にかかる所得税について昭和三九年六月分の給与所得の本税を八万一、三四八円、不納付加算税を八、一〇〇円とする納税告知、賦課決定処分(以下本件源泉徴収決定処分という。)を取消す。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決を、右第四号事件につき、控訴棄却の判決を求め、第一審被告代理人は、右第八号事件につき、控訴棄却の判決を、右第四号事件につき、主文第二、第三項同旨の判決を求めた(なお、第一審被告は、原判決主文第一項及び第二項についての控訴を取下げた。)。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり訂正、付加、削除するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、それをここに引用する。

(主張関係)

1. 原判決三枚目表七行目冒頭から四枚目表四行目まで全部を削除し、同五行目「(三)」を「(一)」と訂正し、同一〇行目冒頭から五枚目表七行目まで全部を削除し、同八行目「(3)」を「(二)」と、同一〇行目「(五)」を「(三)」と各訂正し、同行目「(四)の各」を削除し、五枚目裏四行目「(六)」を「(四)」と訂正し、同行目「(四)の各」を削除する。

2. 同六枚目表二行目「(一)ないし(三)の各」を「(一)の」と訂正し、同行目「同(四)の」から四行目「除き争う。」までを削除し、同行目「(四)の(8)」を「(二)」と、「(五)」を「(三)」と各訂正し、同六行目冒頭から同二三枚目表四行目まで全部を削除し、同四行目と五行目の間に「(二)本件源泉徴収決定処分の適法性について」を加え、同二三枚目裏末行目「申告所得金額」を「右帳簿書類上」と訂正し、同二四枚目表六行目冒頭から同裏五行目まで全部を削除し、同六行目の冒頭に「(3)」を加える。

3. 同二五枚目表六行目冒頭から二八枚目表八行目まで全部を削除し、同九行目「(二)」を「(一)」と、「(三)」を「(二)」と各訂正し、同二八枚目裏五行目の冒頭に「(二)」を加え、同行目「(三)」を「(二)」と訂正し、同八行目冒頭から一〇行目まで全部を削除し、同末行目「(四)」を「(二)の(3)」と訂正する。

(当審における新たな証拠)

1. 第一審原告代理人は、甲第五号証の六、第八号証の一ないし二六、第九号証の一ないし三、第一〇、第一一号証の各一ないし四、第一二号証の一、二、第一三号証を提出し、乙第二六、第三〇号証の各一、二の各成立は認めるが、当審提出のその余の乙号各証の各成立及び乙第二八、第二九号証の各原本の存在はいずれも知らない、と述べた。

2. 第一審被告代理人は、乙第二五号証、第二六号証の一、二、第二七ないし第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一、第三二号証を提出し、当審提出の甲号各証の各成立及び甲第五号証の六、第一二号証の一、二、第一三号証の各原本の存在を認めた。

理由

一  当裁判所は、当審において新たに取調べた証拠を加えて本件全資料を検討した結果、第一審原告の本件源泉徴収決定処分の取消請求は失当であると判断するものであって、その理由の詳細は、次に付加するほか、原判決四四枚目表一行目冒頭から五八枚目裏四行目「推定することができる」までに記載されているのと同じ(ただし、右四四枚目表一行目の「第三」を「第一」と、同二行目「(三)」を「(一)」と、五一枚目裏末行目「乙第二四号証」を「第一九号証」と各訂正する。)であるから、それをここに引用する。

1. 成立に争いのない甲第一二号証の一(別件訴訟の控訴審における証人上西康之の証人尋問調書)のうちには、本件株式の売買価格を一株につき金一〇〇円とする商談が成立したのは昭和三八年一二月一〇日前後である旨の右上西康之の供述記載部分があるが、右記載部分は、原判決の理由説明中甲第五号証の一、二、五のうち右甲第一二号証の一と同趣旨の供述記載部分が信用できない旨の説明(原判決四九枚目裏一行目から五二枚目表一行目まで)と同一理由により、信用することができない。また、原本の存在及び成立に争いのない甲第一三号証(別件訴訟の控訴審における証人佐田健造の証人尋問調書)並びに右甲第一三号証により真正に成立したことが認められる乙第二五号証及び乙第三二号証によれば、昭和三八年一二月初めころ、日興証券株式会社より富士銀行兜町支店に対し、高井証券の安定株主工作のための株式買取資金として約一億五、〇〇〇万円の融資の申込のあったこと、右融資の細部の条件が決定したのは同月一三日の直前であったが、融資の大枠の申込のあったのは同月三日ころであったことの各事実が認められるが、これらの事実は、右上西康之と遠山元一との話合により、本件株式の売買価格が一株につき一〇〇円と決定されたのは同月三日ころであるとの原判決の認定を、更に補強するものである。

2. 成立に争いのない甲第八号証の一ないし二六、第九号証の一ないし三、第一〇、第一一号証の各一ないし四によれば、松岡茂は、昭和三九年一二月一六日から同月一九日の四日間に総額一、〇〇〇万円に近い株式を買付けたこと、同人の株式の配当収入は、昭和三八年度は金八万円、同三九年度は金七八万九、一六六円、同四〇年度は金一七四万七、一二九円であるとして、右各年度の所得税確定申告をし、これに対応する所得税を納付したことが認められ、右事実によれば、右松岡茂において、本件株式の売却差益金を預け入れた通知預金の解約金をもって株式の買付をしたものと推認しうるかのごとくである。

しかし、成立に争いのない乙第二六号証の一、二によれば、松岡茂及びその妻満喜子が昭和三七年度の所得税確定申告をした際、同人ら名義の株式の配当収入を申告しなかったため、所轄の横須賀税務署から更正処分を受けたとき、同人らから、右配当収入は松岡清次郎からすでに同人所轄の芝税務署に申告ずみであるとの異議申立があり、右横須賀税務署から芝税務署に右事実の有無につき照会をし、同税務署所得税課特別調査班において調査をした結果、右配当収入の実質的所有者は松岡清次郎であることが判明し、同税務署から同人に対し修正申告をするようしようようして処理した旨の回答のあったことが認められ、また、原判決挙示の乙第二二号証によれば、松岡茂の昭和四〇年度の所得税確定申告書の原稿は古川英郎が作成したこと、松岡清次郎、宮城章子、川住龍雄らの所得税確定申告書も、松岡清次郎の名義株の関係から、同人の腹心側で作る必要があり、その資料も松岡合資会社にあることの各事実が認められ、これらの事実に、原判決五四枚目裏五行目冒頭から五五枚目裏末行目まで及び同五七枚目裏六行目から五八枚目表二行目までにおいて原判決がそれぞれ認定した事実を総合して考察すれば、右松岡茂名義で買付けた多数の株式のうち及び昭和三八年度ないし同四〇年度における多額の株式の配当収入のうち、松岡茂において、果してどれだけの株式を実質上買付け、また、現実に自ら所得したものといえるかはきわめて疑問であり、したがって、右松岡茂名義で多数の株式を買付け、また、所得税確定申告において多額の配当収入があったごとく記載されていた事実があるからといって、直ちに、本件株式の売却益は第一審原告に帰属したとする原判決の判断を覆すことはできない。

3. 本件株式の売却益にかかる第一審被告主張の預金利息額が六、一八二円であること自体は、その性質及び帳簿上の処理は別として、第一審原告において明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

そこで、原判決五八枚目裏四行目「推定することができる」の次に、「ところ、その利息額が六、一八二円であることは右のとおりであり、前記のとおり、本件株式の売却益が実質的に松岡清次郎の所得金と同様に管理処分(費消)されていたことからすれば、同売却益について生じた右預金利息もまた同人の所得金と同様に管理処分されていたものと推定され、この推定を覆すに足りる証拠もない。」を加える。

4. 以上のとおり、本件株式の売却益四九万七、五〇一円及びこれに対する預金利息六、一八二円は、松岡清次郎においてこれを費消したものというべきであり、また、原判決及び前記において認定した事実を総合すれば、第一審原告の経理は全面的に松岡清次郎の意思により支配され、かつ、同人は役員として第一審原告の資産を自由に処分し得る立場にあったことが認められるから、右売却益及び預金利息は、第一審原告が松岡清次郎に対し臨時的給与(賞与)として支給したものと認めるのが相当であり、また、その時期は、格別に扱うべき事情もとくに見あたらないので、松岡茂名義の通知預金が解約された昭和三九年六月とするのが相当である。

そうすると、本件株式の売却益及びその預金利息の合計金五〇万三、六八三円が昭和三九年六月第一審原告から松岡清次郎に支給された臨時的給与(賞与)であると認め、第一審被告において、第一審原告に対して源泉徴収にかかる所得税につき、昭和三九年六月分の給与所得の本税を八万一、三四八円、不納付加算税を八、一〇〇円(税額については当事者間に争いがない。)としてした本件源泉徴収決定処分は適法であり、これを違法としてその取消を求める第一審原告の本訴請求は失当であるといわねばならない。

二  よって、第一審原告の本件控訴は理由がないので、これを棄却し、右と異なる見解のもとに、第一審原告の本訴請求の一部を認容した原判決は失当であり、第一審被告の本件控訴は理由があるので、原判決主文第三項のうち、第一審被告の販訴部分を取消したうえ、同部分に関する第一審原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 桝田文郎 裁判官 福田佐昭 裁判官日野原昌は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 桝田文郎)

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